Adobe Senseiの進化と待望の製品リリース ~ Adobe MAX 2017 基調講演1日目レポート

夛田 一貴
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こんにちは。2017年度新卒webフロントエンジニアの夛田(@itsukichang)です。

現在Adobe Systemsが開催するクリエイティブの祭典『Adobe MAX 2017』に参加するためにアメリカ/ラスベガスに来ています。今回の記事ではAdobe MAX2017で発表された1日目の基調講演の内容をレポートします。

AdobeMAXの基調講演は二日間に渡って行われますが、初日では既存製品のアップデート情報、Creative Cloudに追加された新製品の紹介、Adobe Senseiによるクリエイティブの変化における未来展望が発表されました。

ダイジェスト

  • 大人気ツール、Illustrator、Photoshopの最新アップデート
  • プロトタイピングツールAdobe XDの正式リリース
  • 3Dプロダクトデザインを身近に作れるFelixがアップデート。Adobe Dimensionとして名を変えパワーアップ
  • 手軽な写真編集ツールLightroomの進化。より操作が直感的になりLightroom CCとしてリリース
  •  Sneaksの実現!PremiereでVRゴーグルを被りながらのコンテンツ編集が実現
  • 単純作業は全て機械任せに。Adobe Senseiの今後の展望

毎年恒例、Adobeの技術をフル活用したオープニング

今回のAdobeMAXはラスベガスのVenetianというホテルにて開催されています。この会場を埋め尽くす参加者総勢は12000人。オンラインでも非常に多くの視聴者が見守る中、非常に華やかなオープニングムービーが始まりました。プロジェクションマッピングが多用されたド派手なムービーに観客は大盛り上がりでした。

ムービーの後に登場したのはCEOのShantanu Narayen 氏。まずは先日起きたラスベガス銃撃事件の追悼をメッセージを述べました。AdobeMAXがラスベガスで開催されるのは初の事です。

今年の参加者は過去最大のものとなりました。参加者の数が示すとおり、Adobeの技術をはじめとするクリエイティブに対しての関心が非常に高まっています。
誰もが気軽にものづくりに参加できる今の時代は、21世紀のルネッサンス期である」とShantanu氏は述べました。

こうした激しい時代の変化の中でAdobeが担うミッションは「クリエイティビティの加速化を支えること」です。具体的にはクリエイティブツールのUIをより向上させ、AIによる補助を提供することにより、クリエイターがコンテンツ制作の本質的な部分に集中できる環境を提供するとのことです。

実際に本日発表された様々なアップデートや新製品の紹介では、クリエイターがより楽になる細かな仕組みづくりが随所に散りばめられているように感じました。

パネルの充実やフォント機能の強化 -Illustrator / Photoshopの新機能

一発目の発表は既存製品のアップデート情報から。大人気ツールのIllustratorとPhotoshopに搭載された新たな機能についての紹介が始まりました。

プロパティパネルの改善

Illustratorのプロパティパネルが改善され、Adobe StockやAdobe Captureとの連携がより容易になりました。
地味なアップデートに見えますが、ヘビーユーザにとってはかゆいところに手が届くありがたい機能です。

フォント機能の充実

typekitとの鮮やかな連携

Adobe Captureで撮影した写真に写り込んでいるフォントをtypekitから検索し、近いものをIllustratorに取り込む機能が実装されました。まるでChrome拡張の『WhatFont』を現実世界で使えるようにしたような機能です。
取り込んだフォントは先ほどのプロパティパネルに瞬時に表示され、自前のデザインの一部に即座に反映させることができます。

Variable fontへの対応

Illustrator上から幅やセリフなど細かなフォント調整が可能となりました。

曲線ペンツール

Photoshopに曲線ペンツールが追加されました。これは既存のペンツールよりも簡単にベジェ曲線を描くことができる機能です。デモではトランプ上の美しいシンメトリーなハートマークをものの数秒で完成させていました。

待望のAdobe XDリリース

これまでbeta版扱いであったAdobe XDがついに正式リリースされました。特筆すべきは光のような処理の速さ!100枚はゆうに超える画面デザインが置かれた巨大なアートボードの移動や拡大縮小が非常にスムーズに動作していました。

また、待望のAdobe CCライブラリのパネルが搭載されました。さらに他のAdobeツールからの連携が強化され、Photoshopで編集した内容が即座にXd上で反映されるようになりました。

(Xdの画面左に表示されているアセットパネルの色を赤に設定するだけで、エメラルドグリーン色コンポーネントが全て赤色に変化!)

新製品 Adobe Dimension ~ Project Felixが進化して再登場

昨年のAdobeMAXで紹介されたProject Felix。これは3Dのグラフィックデザインを身近なものにするために作られた新提案でした。

このFelixが製品名を変えAdobe Dimensionとして新登場。Adobe Stockに公開されている3Dモデルに対して、デザイナーが製作した2Dグラフィクスを組み合わせることにより、これまで2Dにとどまっていたデザインをマグカップやペン、ガラス製品といったプロダクトデザインに展開することができます。

扱いが難しい3Dモデリングは全てAdobe Stockにお任せ。Adobe Stockから手に入れたテンプレートは、大きさや照明、反射、露出、背景、カメラアングルに至るまで全てコントロールすることができます。

レンダリング後はPhotoshopなどに取り込み、立体感のある2Dデザインとして落とし込むことも可能です。

完全クラウドベースのLightroomが登場

手軽な写真編集ツールとして大人気なLightroomがUIを大きく変更し、Lightroom CCとして生まれ変わりました。

これまでのバージョンはLightroom Classicとして残り、新バージョンはデスクトップ、web、iPad、iPhone 8 Plus等から利用することができます。

Adobe Senseiを用いたキーワード検索

保存されている大量の画像に対して、キーワード検索ができるようになりました。例えば「人」や「動物」のような検索を行うことにより、写真に写り込んでいる物体のフィルタリングが可能です。この機能はAdobe Senseiによる機械学習によって実現されているため、自ら写真1枚1枚に対してタグ付けをするといった作業が必要ありません。

より手軽になった写真編集

明るさ、コントラスト、ビビッドなど写真編集には様々なパラメータがありますが、全て自前でコントロールしなくても済むように多くのプリセットが提供されるようになりました。また自分が調整したパラメータを新たなプリセットとして共有することも可能です。

モバイルアプリからも多様な操作

スマートフォンからもRAWイメージを編集し、その結果を全てのデバイスで共有させることができます。デモでは、iPhoneにおける簡単な露出やコントラスト調整、範囲指定マスク処理といった編集を瞬時に実現していました。

VRプレビュー機能が搭載。新しくなったPremiere

動画編集ツールのPremiereにも新機能の追加が行われました。

まずはモーションデザインテンプレートがAdobe Stockに追加され、これを自在に取り込むことができます。またモーションがレスポンシブデザインに対応し、画面比率や長さによってキーレフレーム等が自動調整されます。

そして目玉の機能がVR用プレビュー機能。昨年のSneaksで紹介されていた未来展望でしたが、本日のアップデートから使えるようになりました。これによりOculus等をかぶりながらのVRコンテンツ編集が可能となりました。

ラフスケッチから実写ポスターの実現 -Adobe Senseiの未来

これまでの新発表にも随所に名前を見たAdobe Sensei。昨年の発表を皮切りにどんどんパワーアップしていく様子が伺えます。

Adobe Senseiの使命は、機械的なつまらない作業を全てAIが解決し、クリエイターが人間にしかできない本質的な作業に集中する環境を提供することです。そのためには、クリエイティビィの良さを計測し、コンテンツに対する深い学習を行う知能が必要です。

これらは現在も研究され、実現可能な部分からプロダクトに取り込まれていますが、もっと将来にAIが洗煉された時には次のようなクリエイティビティの変化を起こすことが可能であると発表されました。

例えばPhotoshopに取り込まれたラフスケッチ。取り込んだ瞬間にスケッチから得られる情報をユーザに提示します(星、女性、ロケットが描かれている等)。

ここからどのようなコンセプトを実現しようとしているのかを判断し、大量の画像集(恐らくはAdobe Stockでしょう)の中から適切なイメージを提示します。他の素材に合わせたマスク処理や明度の調整も自動で行い、最終的には簡単なドラッグ&ドロップ操作だけで壮大なポスターが完成してしまいました。

また、未来にAdobeXDに搭載されたSenseiは、音声入力で「iPhone用にコンバートして」というだけで、デバイスの違いによるデザインを補完したものを出力し、マルチデバイス向けのプロトタイピングを一瞬で片付けることができます。なかなか眉唾物の内容ですが、「クリエイティブアシストの強化」という点では実際にこの1年で大幅な変化がありました。

上記の魔法のような機能が急激に訪れることは難しいでしょうが、日々賢くなるAdobe Senseiの力によってクリエイターの手間が少しずつ減少していくのは間違いなさそうですね。

おわりに

今年のAdobeMAXでは既存製品のアップデートやベータ版/コンセプトモデル段階だったアプリケーションの正式リリースの発表が主でした。まったくの新製品の発表が無かったのは少々残念ですが、 Adobe Senseiの進化と未来の可能性を感じられたのが非常にエキサイティングでした。

新たな機能の中で「何もしなくても勝手にやってくれる」という魔法を感じるシーンがあれば、それは全てAdobe Senseiが裏で動いています。人工知能や機械学習が我々のクリエイティビティを向上させてくれることにはとても夢がありますね。

基調講演で壮大な展望が聞けたため、2日目に行われる『Sneaks』ではどんな未来の話をしてくれるのかが今から楽しみです。