教育の未来は IoT とブロックチェーンで変革する 〜 SXSW 2016 参加レポート #1 SXSWedu 基調講演編

beniyama
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はじめまして、データエンジニアの beniyama こと山邉哲生です。2月末にリリースされたスタディサプリのデータ分析基盤の開発を担当しています。

さて、テキサス州オースティンで開催される年に一度のお祭りである SXSW に参加してきましたのでその様子をレポートしたいと思います。SXSW への参加は RMP としては去年に引き続き今年で二回目。個人的には去年デジタルハリウッド大学で開催された『SXSW への挑戦結果報告会』で初めて SXSW の存在を知りました。そのとき教育事業への興味関心が目覚めたのがきっかけで今こうして RMP で働いているということもあり、参加もしていないうちから勝手に思い入れを深めていたイベントです。

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SXSW(さうす・ばい・さうす・うぇすと) とは?

SXSW はテーマごとに分かれたそれぞれが巨大なイベントの総称で、メインとなるのは SXSW MusicSXSW Film、そして SXSW Interactive です。今年は去年の振り返りにもあったようにテクノロジの見本市である SXSW Interactive だけでなく、アメリカ中の教育関係者が集う SXSWedu にも参加してきました。

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SXSWedu から始まってその後に SXSW Interactive と SXSW Film、そして最後に SXSW Music と会期をずらしながら変遷するため、参加者のバックグラウンドやセッションの盛り上がり方、そしてオースティンの街の雰囲気もどんどん変化していくのが面白かったです。

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会期中のオースティンの様子や滞在 tips については去年の記事に譲るとして、今回は『未来を変える学習法』であるスタディサプリを更に進化させるためのヒントを得に『ビッグデータ解析』 『アダプティブラーニング』 といったキーワードを中心にエンジニア視点でイベントを切り取ってきました。本記事ではまず初めに SXSWedu の基調講演についてご紹介します。

SXSWedu 基調講演

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今回、三日間に渡って基調講演がありましたがいずれも期待以上に面白く、カンファレンスの質の高さを感じることができました。基調講演はいずれも動画が公開されていましたので Youtube へのリンクも掲載させていただきます。

Helping Different Kinds of Minds Solve Problems

講演概要

冒頭でも述べられていますが Temple Grandin 博士はコロラド州立大学で動物学を研究されている准教授です。自閉症を抱えており、映像で物事を思考する Visual Thinker(視覚型思考者)の能力を活かし被虐待的な家畜施設を設計、現在はアメリカの半数の牛たちが博士の設計した施設で処理されているそうです。

講演を聞くまで Visual Thinker について理解がなかったのですが、博士曰く「Google 画像検索のようにキーワードに対して画像が瞬時に何枚も浮かび上がってくる」そうで、動物が周辺の情報を知覚するように物事の細部を捉えることに秀でているそうです。実際、家畜施設の設計においては影や車の反射、向かいの建物の旗など何が動物の誘導を妨げているかを特定することが重要だったとのことでした。

他にもエンジニアや数学者に向いている Pattern Thinker をはじめ、Verbal Thinker、Auditory Thinker などの思考タイプが触れられていました。ただし遺伝子の特性はサウンドミキサー(のつまみの組み合わせ)のようなものでそれぞれの特徴が混ぜ合わさって発現するため短絡的に誰々は◯型とは言えないようです。また脳の構造レベルで思考法や問題解決のアプローチは大きく異なりうるということは、教育においても自分自身の日頃のチームワークにおいても意識する必要があると感じました。

更にアダプティブラーニングについて考える上でも、博士の「(Visual Thinker が苦手とする)代数学ができなかったからといって幾何学や生物学のクラスを受けさせてもらえないというのは大きな誤り(実際生物学でストレートAを取得したとのこと)」というお話はいかに個々人に最適な学びを提供するか?について更に議論を進めるきっかけを得たと思います。博士の半生を実写化した映画もあるようですので是非観てみようと思います。

ちなみに SXSWedu の開幕を飾る Keynote でしたが、自分の参加したセッションでスタンディングオベーションが起きたのはこの講演だけだったと記憶しています。

The Role of Maker Ed in Schools

講演概要

磁石で手軽にモジュールをつなぎ合わせ電子工作・プログラミングを行える littleBits 社の CEO Ayah Bdeir 氏の講演です。現在、アメリカにおける教育で重要視されている STEAM (Science, Technology, Engineering, Art and Math) 教育の教材としても注目を浴びており、昨今の Maker ムーブメントを踏まえ今後の方向性や課題感が語られていました。

回路むき出しの基盤を使って学んでいた時はあまり興味を持てなかったエンジニアリングが MIT Media Lab に入ってからは(過酷ながらも)ひき込まれるようにモノ作りを通して学習することができたそうで、その経験を共有したいという想いが littleBits 誕生の背景にあるそうです。当初は教育現場をターゲットにしていたわけではなかったそうですが、数年に渡るプロダクト開発とカスタマーリサーチの結果をベースに今回 K12(幼稚園 - 高等学校卒業までを対象にした教育)領域を対象にした littleBits Education キットが発表されました。問題解決のスキルを身につけるための『モノを投げて紙コップの山を崩す』などのチャレンジや、授業に導入しやすいように先生へのインストラクションおよびサポートを意識したパッケージ構成になっているようです。

特に教師や学校のパフォーマンスが厳しく評価されるアメリカにあって、従来の試験では評価できないモノ作りを通した STEAM 教育をどう成功させるつもりか?という質問が興味深く、その場での回答では例えば NGSS (Next Generation Science Standards) といった組織と組んでカリキュラムへの導入支援を行っている、ということが紹介されていました。従来の試験による評価軸を変革するために導入校で様々なユースケース・ストーリーを生み出して Maker x EdTech のムーブメントを促進していきたいということでした。

How to Think (and Learn) Like a Futurist

講演概要

『Reality is Broken』や『Super Better』といった書籍の著者として知られるゲームデザイナーの Jane McGonigal 氏の講演です。今回は直接的にゲームを語るのではなく、未来の教育を考える上でまずタイトルにもある Futurist(未来学者)としてどのように未来を想像し、行動を起こしていくか?という話から始まりました。

未来を考える上での4つのスキル、ということで

  1. 未来からのシグナルを集める (Collect signals from the future)
  2. シグナルを組み合わせて予測を立てる (Combine signals into forecasts)
  3. 個人的な予測を立てる (Create personal forecast)
  4. 未来を(何千人もの人たちと)遊ぶ (Play with the future with thousands of others)

というステップをそれぞれユニークな例とともに紹介していました。

例えば『シグナルを組み合わせる』では『食品をプリントできる3Dフードプリンター』と『VR 用 HMD』、『ダイエットゲーム』などを組み合わせて 『VRで実際に食べているものと異なる食体験を提供する低炭素ダイエットゲーム』 を作るアイデアを提案。また『個人的な予測』では自身がゲームデザイナーであるという前提をもとにパンデミックが起きたときに外に出ないで家で遊べるダンスゲームを開発し、それが後に世界銀行との共同プロジェクト Evoke(世界、特にアフリカの社会問題を解決するためのスキルセットを養うためのシリアスゲーム)につながったという話の紹介がありました。

そして更にその先の10年後の教育を予測したのが最後に披露された『The Ledger』です。The Ledger はブロックチェーンを未来からのシグナルと捉えた Micro credential のプラットフォームで、獲得したスキルを EduBlock と呼ばれるバッジで表現することで学習に対する金銭的な対価をより明確に、簡易に授受できるようにするとしています。この構想が目指すのは誰もが生徒であり先生にもなれ、かつ学校や塾といった特定の場所に縛られずにどこでも学びとその証を記録することができる世界です。先生と生徒の関係性においても、生徒の将来性を見込んだ投資として最初は授業料を抑えて請求し後で返済してもらう、といった使い方も想定しているそうです。

従来型のカリキュラム・学位授与型の教育のROIは果たして良いのか?という Micro credential の議論をブロックチェーンの発想から一歩進めて問題提起をしている点が印象に残りました。なお、LEARNING IS EARNING 2026 では The Ledger に対する人々の興味・反応を可視化するゲームも設けられていますので、そこに投稿されている意見を眺めてみるのも面白いと思います。

次回は SXSWedu のセッションやスタートアップのピッチコンテストの中からいくつかピックアップしてご紹介したいと思います。