VR/AR と IoT が話題を席巻! 〜 SXSW 2016 参加レポート #4 SXSW Interactive 展示編

beniyama
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こんにちは、データエンジニアの beniyama こと山邉です。

SXSWedu 基調講演編SXSWedu セッション編、そして前回の SXSW Interactive 編 とお届けしてきた SXSW 2016 ですが、最終回の今回は SXSW Interactive のブースと Trade Show についてレポートしようと思います。

街中がデモ・イベントスペースに変わるオースティン

SXSWedu の期間中、やたらあちこちの建物が工事しているなと不思議だったのですが、実はそれら全て SXSW Interactive で各企業の展示やイベントを開催するためのものでした。

例えば、アメリカのテレビ局である USA Network 社はドラマの Mr. Robot の舞台にちなんで移動式観覧車を設置。足元ではその場で T シャツを印刷して配るといった PR を行っていました(ちなみに最終日にはあっさりと撤去されていました)。

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これを見ると SXSW が街ぐるみのイベントと言われる理由がよくわかりますし、多額の費用と時間がかけられているなとも思います。どのブースも趣向が凝らされていて甲乙つけたがいのですが、その中でも最も印象に残ったものを三つご紹介します。

巨大クレーンゲームで豪華商品ゲット!の Google ブース

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Google 社は Google Fiber SpaceSXSW 用のセットアップ を2フロアにわたって設営。 Google Fiber とは光回線を使ってアメリカ国内のいくつかの都市に超高速のブロードバンドインターネットインフラおよびサービスを敷設する試みで、このオースティンもその中の一つです。オバマ大統領の講演の中にもアメリカのアクセスポイント事情が語られていましたが、一方で民間企業によるこういった都市ぐるみの取り組みも進んでいることが印象的でした。

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2階には並んだ人全員が無料で挑戦できる巨大クレーンゲームがあり、景品には Chromecast や Android Wear といった豪華な顔ぶれが並んでいました。

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また VR のコーナーもあり、2015年4月に Google が買収した VR ペイントツールの Tilt Brush の展示がされていました。

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定期的にアーティストによるパフォーマンスも予定されており、運良く VR アートが作成される様子を見ることができました。パレットの操作や絵を描く仕草、作品が完成していく速度からしてかなり正確にトラッキングができているように感じました(操作が思い通りにいかず手直しをしている様子があまり感じられなかった)。またヘッドセット視点の映像もモニタに映し出されていましたが、一方で Galaxy 携帯を使った簡易 VR HMD も提供されており、それを使って個々人の視点で VR 空間内のアートを楽しめるという趣向も凝らされていました。

また Google Fiber によって家庭でのインターネットやテレビ視聴体験がどう変わるかといったデモもありました(こちらはおそらく常設)。

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個人的に気になったのはこっそりとセットアップされていた Nest Thermostat です。Google のスマートホーム構想のハブになるプロダクトと呼ばれていますが、実物を見た(とはいえデモモードっぽいですが)のは初めてでつい動画に撮ってしまいました。

高精細なモーショントラッキングが目を引いた Sony ブース

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未来のライフスタイルや価値に重きをおき、研究開発の成果を社会に示していくため Sony が2016年3月から新しくはじめた取り組みである Sony Future Lab も SXSW で第一弾プロトタイプのお披露目をしていました。

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これは首に装着するデバイスで、ユーザの耳元で鳴るような指向性のある音を発信することができます。周囲とのコミュニケーションを維持したまま音楽や音声とのインタラクションを行うことがコンセプトになっているそうで、例えば誰かと会話をしながら音楽を聴いたりアプリケーションからの通知を受け取ったりすることができるそうです。そのためイヤホンも付属していますが密閉型ではなく、環境音や会話の音を拾えるように設計されています。

またとりわけ目を引いたのがこの AR のデモです。上方に取り付けたカメラで深度を測りプロジェクタで映像を投射しているだけではありますが、そのトラッキング精度がかなり高かったのが印象に残りました。例えば本を指で(数mm)押したことを検知したり、細かい文章の中で指でなぞったところだけ抜き出すといったことをこのデバイス単体でできるというのに驚きました。これが以前 Sony が買収した SoftKinetic の技術なのかまではわかりませんでした。

こちらはポイントを向けた方向に動くプロジェクタのデモで、全面を照射しなくてもこのゲームのようにスポットで映像を投射することができます。

他にはかなりリアルな触覚フィードバックを実現した携帯端末などがありましたが、いずれもコンテンツが作り込まれていて色々見たブースの中でも全体的な完成度が高かったように思います。

もうジェットコースターはいらない? Samsung ブースの VR 体験

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最後にご紹介するのが Samsung Studio です。炎天下の中、長蛇の列が出来るほどの人気ブースでした。Galaxy 端末を持っているとファストパス扱いで早く入れるというユーザ特典があり、1時間程待ち惚けたあたりで iPhone しか持っていない自分をうらめしくも思いました。

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目玉コンテンツは Samsung Gear VR を使った VR ジェットコースターです。シーンに合わせて角度が変わる椅子に座って VR 映像を見るというただそれだけなのですが、臨場感が半端なく凄い。こればかりは文章でお伝えできないのが残念ですが、胃がフワッと浮くようなあの感覚や実際には大して動いてもいないのに加速度を感じたりと人間の五感はいとも簡単に錯覚を起こすのだなと思うほどの体験でした

また、ジェットコースターが集団で乗る乗り物というのも臨場感を高めるのに一役買っています。例えば周囲を見渡せば同乗者がいてシーンに応じて会話をしたり叫び声を上げたりとリアクションをとるので、自ずと自分自身もその雰囲気に同調するのです。他には、例えば上の写真では男4名で乗っていますが HMD の中では好きな人と相乗りすることもできますし、最前列か後列かといった場所も自在にスイッチできるというのも VR ならではの面白さだと思いました。

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日本勢の完成度の高さが目立った Trade Show

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SXSW Interactive の目玉と言っても過言ではないのがスタートアップから大企業まで世界中から様々な技術・サービスのアイデアやデモが集まる Trade Show です。今年からはピッチの会場も用意されていたようで特にスタートアップにとっては自分たちのプロダクトを売り込む絶好の機会と言えると思います。出展内容は VR/AR と IoT が多かったように感じましたが、言い換えると Web やアプリの展示がそれらの陰にかすんでしまって印象に残りづらかったというのもあるかもしれません。

Trade Show では国別のエリアもあり、日本をはじめ韓国や台湾、ブラジルやアルゼンチンなど各国の中で選ばれた代表企業・チームが競い合うように来場者を迎え入れていました。様々な展示がある中でも Todai to TexasHACKist をはじめとする日本勢のプロダクトの完成度が高かったように感じました。

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例えば Sony の新規事業創出プログラムから生まれた MESH は iOS デバイス上でビジュアルプログラミングを行うことで、タグと呼ばれるセンサモジュールを簡単に連携させることができる国産の IoT SDK キットです。既に昨年の8月より販売もされており、モジュールのラインナップも追加され様々なアプリケーションを作ることができるようになっています。とはいえタグ一個あたりの値段が5,000円を超えてくるので手軽に実用的なサービスを構築して…とはいかないですが、IoT サービスのプロトタイピングや学習用教材としての用途には適していると思います。実際、ベネッセさんと共催のワークショップをシリコンバレーで開催されたりしているようです。

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またこちらは 8pino という世界最小の Arduino (Adafruit Trinket) 互換のチップです。写真に写っているArduino Uno と比較しても一目瞭然ですが、紙で作った蝶々に取り付けて(外観を損ねることなく)羽を動かすというデモでそのサイズ感をアピールしていました。なお、ブースを訪れたときにはすでに売り切れとなっており、現地での人気の高さをうかがい知ることができました。

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Xenoma 社が開発した e-skin は抵抗の変化で身体の動きや姿勢を検知することができるウェアラブルデバイスです。伸縮性や耐水性に優れていて、洗濯機による洗濯も問題ないというところに実用性の高さを感じました。デモでは上半身だけでしたが下半身を含めた全身の動きをトラックすることも原理的には可能だということで、スポーツのトレーニングだけでなくゲームなど実に様々な用途に適用することができると思います。VR デバイスと組み合わせればコントローラを持たずとも身体動作でフィードバックを生成することができるので、Oculus のような HMD との相性も良いように感じました。

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この GRID VRICK は色ごとに棚や壁という意味づけをされたレゴブロッグを配置することで家具の配置や部屋のレイアウトなどのデザインができるシステムです。上部に設置してあるカメラでブロックの配置を読み取り、リアルタイムで画面内の 3D モデルが更新されます。また Oculus Rift を装着することで作った部屋の中を居住者目線で確認することもできるそうです。複数階にまたがったデザインをする場合はブロックを全て外したりする必要があるのかなと思ったのですが、そんなことはなくプレートごと入れ替えれば良いそうです。また帰ってきてから調べている中で気づいたのですが、こちらはホームズを手がけるネクストさんの研究部署が開発されているということでした。ちなみに SUUMO でも2月にSUUMO スコープがリリースされており、フリーペーパーに付属したゴーグルとアプリを使って VR での物件内覧をすることができます。

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こちらは電通さんをはじめとした複数企業のプロジェクトの Smile Explorer です。ベビーカーにカメラを装着してスマホ越しに赤ちゃんの様子を見たり、笑ったときに自動的に写真を撮影したりすることができます。その他にもハンドルを持っていないときの自動ロックや座面の温度検知なども盛り込んだスマートベビーカーを提案されていたのですが、一方で既成のベビーカーにアドオンできるカメラモジュールの開発も考えているとのことでした。

赤ちゃんの笑顔を捉えるということをコンセプトにされているのですが、個人的には赤ちゃん連れの世帯の行動ログを分析して都市計画に活用したり、或いは地域内でベビーカーを持つファミリー間のコミュニケーションを促進する媒体としても夢が広がると感じました。最低限スマホと連動する Web カメラがあれば実現できるという現実感もポイントで、ベビーカー x IoT が普及すれば乳幼児のいるファミリー向けのサービスプラットフォームになりうる可能性もあるかと思います。

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最後にご紹介するのは超高画質での自撮りを実現する GIGA Selfie です。オーストラリアの様々な場所でイベントをやられているそうです。旅行先の風景や建物を入れて自撮りをしようとすると極端に自分が小さくなるか背景が見切れてしまうかだと思いますが、GIGA Selfie はあらかじめ撮影スポットからかなり離れた場所に超高解像度のカメラを設置することで被撮影者と背景その両方を認識できる形で写した写真を撮影することができます。実際の作品はこちらをご覧いただくと様子がわかると思いますが、撮影の際にはスマホのアプリでチェックインし自分でシャッターを切るだけという簡単さです(同時に一人しかチェックインできない)。今後、例えばドローンを配備しておいて観光客がチェックインすると自動で飛行してベストショットを撮ってくれる、といったサービスも出てくるかもしれません。

おわりに

4回に分けて連載してきた SXSW 2016 レポートでしたが、まだこれでは書ききれないほどの情報やネタがあり、改めて二週間近くの滞在は実に濃い時間だったと感じています。またあの雰囲気を味わいに行きたいと思う一方で、やはり今度は何かしらアウトプットを持っていきたいと感じるのは SXSWedu は教育の課題に向き合うリアルな場であり、また SXSW Interactive はシーズを持つスタートアップたちが凌ぎを削る場所(とも言える)だからかもしれません。

印象に残っているのは SXSWedu のオープニングで Executive Producer である Ron Reed 氏が言った 「SXSWedu は川のようなものであり、その楽しみ方に良いも悪いもない」 という言葉です。これは edu に限らず SXSW の全行程についてもそうですが、この一大イベントは泳いでも良いし、眺めるだけでも良いし、あるいは洗濯をしに来ても良い。それだけ混沌としていて、何を持ち帰れるかは自分次第というのも SXSW の魅力だと思います。

次回は是非泳ぐ側になって他の泳ぎ手と切磋琢磨できるような参加の仕方をしたいですし、またそのためのコンディションを整えるべくこの一年間を過ごしていきたいです。